れないですよ。どうしても天才肌だ」と東風君はいよいよ感心する。
「ええ実際|癲癇《てんかん》かも知れませんが、しかしあの音色《ねいろ》だけは奇体ですよ。その後《ご》今日《こんにち》まで随分ひきましたがあのくらい美しい音《ね》が出た事がありません。そうさ何と形容していいでしょう。とうてい言いあらわせないです」
「琳琅※[#「王へん+樛のつくり」、第3水準1−88−22]鏘《りんろうきゅうそう》として鳴るじゃないか」とむずかしい事を持ち出したのは独仙君であったが、誰も取り合わなかったのは気の毒である。
「私が毎日毎日店頭を散歩しているうちにとうとうこの霊異な音《ね》を三度ききました。三度目にどうあってもこれは買わなければならないと決心しました。仮令《たとい》国のものから譴責《けんせき》されても、他県のものから軽蔑《けいべつ》されても――よし鉄拳《てっけん》制裁のために絶息《ぜっそく》しても――まかり間違って退校の処分を受けても――、こればかりは買わずにいられないと思いました」
「それが天才だよ。天才でなければ、そんなに思い込める訳のものじゃない。羨《うらやま》しい。僕もどうかして、それほど
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