積だ。猫の前足で掻《か》き散らしても滅茶滅茶になる。引き寄せて結べば草の庵《いおり》にて、解くればもとの野原なりけり。入らざるいたずらだ。懐手《ふところで》をして盤を眺めている方が遥《はる》かに気楽である。それも最初の三四十|目《もく》は、石の並べ方では別段|目障《めざわ》りにもならないが、いざ天下わけ目と云う間際《まぎわ》に覗《のぞ》いて見ると、いやはや御気の毒な有様だ。白と黒が盤から、こぼれ落ちるまでに押し合って、御互にギューギュー云っている。窮屈だからと云って、隣りの奴にどいて貰う訳にも行かず、邪魔だと申して前の先生に退去を命ずる権利もなし、天命とあきらめて、じっとして身動きもせず、すくんでいるよりほかに、どうする事も出来ない。碁を発明したものは人間で、人間の嗜好《しこう》が局面にあらわれるものとすれば、窮屈なる碁石の運命はせせこましい人間の性質を代表していると云っても差支《さしつか》えない。人間の性質が碁石の運命で推知《すいち》する事が出来るものとすれば、人間とは天空海濶《てんくうかいかつ》の世界を、我からと縮めて、己《おの》れの立つ両足以外には、どうあっても踏み出せぬように、
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