白雲の自然に岫《しゅう》を出でて冉々《ぜんぜん》たるごとき心持ちで一局を了してこそ、個中《こちゅう》の味《あじわい》はわかるものだよ」
「また来たね。そんな仙骨を相手にしちゃ少々骨が折れ過ぎる。宛然《えんぜん》たる列仙伝中の人物だね」
「無絃《むげん》の素琴《そきん》を弾じさ」
「無線の電信をかけかね」
「とにかく、やろう」
「君が白を持つのかい」
「どっちでも構わない」
「さすがに仙人だけあって鷹揚《おうよう》だ。君が白なら自然の順序として僕は黒だね。さあ、来たまえ。どこからでも来たまえ」
「黒から打つのが法則だよ」
「なるほど。しからば謙遜《けんそん》して、定石《じょうせき》にここいらから行こう」
「定石にそんなのはないよ」
「なくっても構わない。新奇発明の定石だ」
 吾輩は世間が狭いから碁盤と云うものは近来になって始めて拝見したのだが、考えれば考えるほど妙に出来ている。広くもない四角な板を狭苦しく四角に仕切って、目が眩《くら》むほどごたごたと黒白《こくびゃく》の石をならべる。そうして勝ったとか、負けたとか、死んだとか、生きたとか、あぶら汗を流して騒いでいる。高が一尺四方くらいの面
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