の茶托《ちゃたく》の上へ載せて、
「雪江さん、憚《はばか》りさま、これを出して来て下さい」
「わたし、いやよ」
「どうして」と細君は少々驚ろいた体《てい》で笑いをはたと留める。
「どうしてでも」と雪江さんはやにすました顔を即席にこしらえて、傍《そば》にあった読売新聞の上にのしかかるように眼を落した。細君はもう一応|協商《きょうしょう》を始める。
「あら妙な人ね。寒月さんですよ。構やしないわ」
「でも、わたし、いやなんですもの」と読売新聞の上から眼を放さない。こんな時に一字も読めるものではないが、読んでいないなどとあばかれたらまた泣き出すだろう。
「ちっとも恥かしい事はないじゃありませんか」と今度は細君笑いながら、わざと茶碗を読売新聞の上へ押しやる。雪江さんは「あら人の悪るい」と新聞を茶碗の下から、抜こうとする拍子に茶托《ちゃたく》に引きかかって、番茶は遠慮なく新聞の上から畳の目へ流れ込む。「それ御覧なさい」と細君が云うと、雪江さんは「あら大変だ」と台所へ馳《か》け出して行った。雑巾《ぞうきん》でも持ってくる了見《りょうけん》だろう。吾輩にはこの狂言がちょっと面白かった。
 寒月君はそれ
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