関係の薄いところには同情も自《おのず》から薄い訳である。見ず知らずの人のために眉《まゆ》をひそめたり、鼻をかんだり、嘆息をするのは、決して自然の傾向ではない。人間がそんなに情深《なさけぶか》い、思いやりのある動物であるとははなはだ受け取りにくい。ただ世の中に生れて来た賦税《ふぜい》として、時々交際のために涙を流して見たり、気の毒な顔を作って見せたりするばかりである。云わばごまかし性《せい》表情で、実を云うと大分《だいぶ》骨が折れる芸術である。このごまかしをうまくやるものを芸術的良心の強い人と云って、これは世間から大変珍重される。だから人から珍重される人間ほど怪しいものはない。試して見ればすぐ分る。この点において主人はむしろ拙《せつ》な部類に属すると云ってよろしい。拙だから珍重されない。珍重されないから、内部の冷淡を存外隠すところもなく発表している。彼が武右衛門君に対して「そうさな」を繰り返しているのでも這裏《しゃり》の消息はよく分る。諸君は冷淡だからと云って、けっして主人のような善人を嫌ってはいけない。冷淡は人間の本来の性質であって、その性質をかくそうと力《つと》めないのは正直な人であ
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