いだろう、欲しければ取りにおいでと札を出したり引っ込ましたりしたがこれもまるで益《やく》に立たないんですって。よっぽど頑固《がんこ》な地蔵様なのよ」
「そうね。すこし叔父さんに似ているわ」
「ええまるで叔父さんよ、しまいに利口な人も愛想《あいそ》をつかしてやめてしまったんですとさ。それでそのあとからね、大きな法螺《ほら》を吹く人が出て、私《わたし》ならきっと片づけて見せますからご安心なさいとさも容易《たやす》い事のように受合ったそうです」
「その法螺を吹く人は何をしたんです」
「それが面白いのよ。最初にはね巡査の服をきて、付《つ》け髯《ひげ》をして、地蔵様の前へきて、こらこら、動かんとその方のためにならんぞ、警察で棄てておかんぞと威張って見せたんですとさ。今の世に警察の仮声《こわいろ》なんか使ったって誰も聞きゃしないわね」
「本当ね、それで地蔵様は動いたの?」
「動くもんですか、叔父さんですもの」
「でも叔父さんは警察には大変恐れ入っているのよ」
「あらそう、あんな顔をして? それじゃ、そんなに怖《こわ》い事はないわね。けれども地蔵様は動かないんですって、平気でいるんですとさ。それで法
前へ 次へ
全750ページ中603ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング