と見える。情《なさけ》ない事だ。こんなごろつき手に比べると主人などは遥《はる》かに上等な人間と云わなくてはならん。意気地のないところが上等なのである。無能なところが上等なのである。猪口才《ちょこざい》でないところが上等なのである。
かくのごとく働きのない食い方をもって、無事に朝食《あさめし》を済ましたる主人は、やがて洋服を着て、車へ乗って、日本堤分署へ出頭に及んだ。格子《こうし》をあけた時、車夫に日本堤という所を知ってるかと聞いたら、車夫はへへへと笑った。あの遊廓のある吉原の近辺の日本堤だぜと念を押したのは少々|滑稽《こっけい》であった。
主人が珍らしく車で玄関から出掛けたあとで、妻君は例のごとく食事を済ませて「さあ学校へおいで。遅くなりますよ」と催促すると、小供は平気なもので「あら、でも今日は御休みよ」と支度《したく》をする景色《けしき》がない。「御休みなもんですか、早くなさい」と叱《しか》るように言って聞かせると「それでも昨日《きのう》、先生が御休だって、おっしゃってよ」と姉はなかなか動じない。妻君もここに至って多少変に思ったものか、戸棚から暦《こよみ》を出して繰り返して見ると
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