ォか》に清風《せいふう》を生《しょう》ぜざるも、歯根《しこん》に狂臭《きょうしゅう》あり、筋頭《きんとう》に瘋味《ふうみ》あるをいかんせん。いよいよ大変だ。ことによるともうすでに立派な患者になっているのではないかしらん。まだ幸《さいわい》に人を傷《きずつ》けたり、世間の邪魔になる事をし出かさんからやはり町内を追払われずに、東京市民として存在しているのではなかろうか。こいつは消極の積極のと云う段じゃない。まず脈搏《みゃくはく》からして検査しなくてはならん。しかし脈には変りはないようだ。頭ヘ熱いかしらん。これも別に逆上の気味でもない。しかしどうも心配だ。」
「こう自分と気狂《きちがい》ばかりを比較して類似の点ばかり勘定していては、どうしても気狂の領分を脱する事は出来そうにもない。これは方法がわるかった。気狂を標準にして自分をそっちへ引きつけて解釈するからこんな結論が出るのである。もし健康な人を本位にしてその傍《そば》へ自分を置いて考えて見たらあるいは反対の結果が出るかも知れない。それにはまず手近から始めなくてはいかん。第一に今日来たフロックコートの伯父さんはどうだ。心をどこに置こうぞ……あ
前へ
次へ
全750ページ中561ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング