sおさん》の取次に出るのも待たず、通れ[#「通れ」に傍点]と云いながら隔ての中の間《ま》を二た足ばかりに飛び越えて玄関に躍《おど》り出した。人のうちへ案内も乞わずにつかつか這入《はい》り込むところは迷惑のようだが、人のうちへ這入った以上は書生同様取次を務《つと》めるからはなはだ便利である。いくら迷亭でも御客さんには相違ない、その御客さんが玄関へ出張するのに主人たる苦沙弥先生が座敷へ構え込んで動かん法はない。普通の男ならあとから引き続いて出陣すべきはずであるが、そこが苦沙弥先生である。平気に座布団の上へ尻を落ちつけている。但《ただ》し落ちつけているのと、落ちついているのとは、その趣は大分《だいぶ》似ているが、その実質はよほど違う。
玄関へ飛び出した迷亭は何かしきりに弁じていたが、やがて奥の方を向いて「おい御主人ちょっと御足労だが出てくれたまえ。君でなくっちゃ、間に合わない」と大きな声を出す。主人はやむを得ず懐手《ふところで》のままのそりのそりと出てくる。見ると迷亭君は一枚の名刺を握ったまましゃがんで挨拶をしている。すこぶる威厳のない腰つきである。その名刺には警視庁刑事巡査|吉田虎蔵《よ
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