b《よ》ったりするような容易《たやす》いものではなかったのでがすよ」
「なるほど」とやはりかしこまっている。
「伯父さん心の修業と云うものは玉を磨る代りに懐手《ふところで》をして坐り込んでるんでしょう」
「それだから困る。決してそんな造作《ぞうさ》のないものではない。孟子《もうし》は求放心《きゅうほうしん》と云われたくらいだ。邵康節《しょうこうせつ》は心要放《しんようほう》と説いた事もある。また仏家《ぶっか》では中峯和尚《ちゅうほうおしょう》と云うのが具不退転《ぐふたいてん》と云う事を教えている。なかなか容易には分らん」
「とうてい分りっこありませんね。全体どうすればいいんです」
「御前は沢菴禅師《たくあんぜんじ》の不動智神妙録《ふどうちしんみょうろく》というものを読んだ事があるかい」
「いいえ、聞いた事もありません」
「心をどこに置こうぞ。敵の身の働《はたらき》に心を置けば、敵の身の働に心を取らるるなり。敵の太刀《たち》に心を置けば、敵の太刀に心を取らるるなり。敵を切らんと思うところに心を置けば、敵を切らんと思うところに心を取らるるなり。わが太刀に心を置けば、我太刀に心を取らるるなり
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