ヘ建武時代の鉄で、性《しょう》のいい鉄だから決してそんな虞《おそ》れはない」
「いくら性のいい鉄だってそうはいきませんよ。現に寒月がそう云ったから仕方がないです」
「寒月というのは、あのガラス球《だま》を磨《す》っている男かい。今の若さに気の毒な事だ。もう少し何かやる事がありそうなものだ」
「可愛想《かわいそう》に、あれだって研究でさあ。あの球を磨り上げると立派な学者になれるんですからね」
「玉を磨《す》りあげて立派な学者になれるなら、誰にでも出来る。わしにでも出来る。ビードロやの主人にでも出来る。ああ云う事をする者を漢土《かんど》では玉人《きゅうじん》と称したもので至って身分の軽いものだ」と云いながら主人の方を向いて暗に賛成を求める。
「なるほど」と主人はかしこまっている。
「すべて今の世の学問は皆|形而下《けいじか》の学でちょっと結構なようだが、いざとなるとすこしも役には立ちませんてな。昔はそれと違って侍《さむらい》は皆|命懸《いのちが》けの商買《しょうばい》だから、いざと云う時に狼狽《ろうばい》せぬように心の修業を致したもので、御承知でもあらっしゃろうがなかなか玉を磨ったり針金を
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