鞄魔フ事と心得ている。教育者がいたずらに生徒の本性《ほんせい》を撓《た》めて、僕の手柄を見給えと誇るようなもので毫《ごう》も非難すべき理由はない。
 主人が満腔《まんこう》の熱誠をもって髯を調練していると、台所から多角性の御三《おさん》が郵便が参りましたと、例のごとく赤い手をぬっと書斎の中《うち》へ出した。右手《みぎ》に髯をつかみ、左手《ひだり》に鏡を持った主人は、そのまま入口の方を振りかえる。八の字の尾に逆《さ》か立《だ》ちを命じたような髯を見るや否や御多角《おたかく》はいきなり台所へ引き戻して、ハハハハと御釜《おかま》の蓋《ふた》へ身をもたして笑った。主人は平気なものである。悠々《ゆうゆう》と鏡をおろして郵便を取り上げた。第一信は活版ずりで何だかいかめしい文字が並べてある。読んで見ると
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拝啓|愈《いよいよ》御多祥|奉賀候《がしたてまつりそろ》回顧すれば日露の戦役は連戦連勝の勢《いきおい》に乗じて平和克復を告げ吾忠勇義烈なる将士は今や過半万歳声|裡《り》に凱歌を奏し国民の歓喜何ものか之《これ》に若《し》かん曩《さき》に宣戦の大詔煥発《たいしょうかんぱつ》せらる
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