ヒ。どうしても金のあるものに、たてを突いちゃ損だね。ただ神経ばかり痛めて、からだは悪くなる、人は褒《ほ》めてくれず。向うは平気なものさ。坐って人を使いさえすればすむんだから。多勢《たぜい》に無勢《ぶぜい》どうせ、叶《かな》わないのは知れているさ。頑固もいいが、立て通すつもりでいるうちに、自分の勉強に障ったり、毎日の業務に煩《はん》を及ぼしたり、とどのつまりが骨折り損の草臥儲《くたびれもう》けだからね」
「ご免なさい。今ちょっとボールが飛びましたから、裏口へ廻って、取ってもいいですか」
「そらまた来たぜ」と鈴木君は笑っている。
「失敬な」と主人は真赤《まっか》になっている。
 鈴木君はもう大概訪問の意を果したと思ったから、それじゃ失敬ちと来《き》たまえと帰って行く。
 入れ代ってやって来たのが甘木《あまき》先生である。逆上家が自分で逆上家だと名乗る者は昔《むか》しから例が少ない、これは少々変だなと覚《さと》った時は逆上の峠《とうげ》はもう越している。主人の逆上は昨日《きのう》の大事件の際に最高度に達したのであるが、談判も竜頭蛇尾たるに係《かかわ》らず、どうかこうか始末がついたのでその晩書
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