ス。すると今まで室内に密封された八百の同勢は鬨《とき》の声をあげて、建物を飛び出した。その勢《いきおい》と云うものは、一尺ほどな蜂《はち》の巣を敲《たた》き落したごとくである。ぶんぶん、わんわん云うて窓から、戸口から、開きから、いやしくも穴の開《あ》いている所なら何の容赦もなく我勝ちに飛び出した。これが大事件の発端である。
まず蜂の陣立てから説明する。こんな戦争に陣立ても何もあるものかと云うのは間違っている。普通の人は戦争とさえ云えば沙河《しゃか》とか奉天《ほうてん》とかまた旅順《りょじゅん》とかそのほかに戦争はないもののごとくに考えている。少し詩がかった野蛮人になると、アキリスがヘクトーの死骸を引きずって、トロイの城壁を三匝《さんそう》したとか、燕《えん》ぴと張飛が長坂橋《ちょうはんきょう》に丈八《じょうはち》の蛇矛《だぼう》を横《よこた》えて、曹操《そうそう》の軍百万人を睨《にら》め返したとか大袈裟《おおげさ》な事ばかり連想する。連想は当人の随意だがそれ以外の戦争はないものと心得るのは不都合だ。太古蒙昧《たいこもうまい》の時代に在《あ》ってこそ、そんな馬鹿気た戦争も行われたかも知
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