フ変化する訳がない。
 全体人にからかうのは面白いものである。吾輩のような猫ですら、時々は当家の令嬢にからかって遊ぶくらいだから、落雲館の君子が、気の利《き》かない苦沙弥先生にからかうのは至極《しごく》もっともなところで、これに不平なのは恐らく、からかわれる当人だけであろう。からかうと云う心理を解剖して見ると二つの要素がある。第一からかわれる当人が平気ですましていてはならん。第二からかう者が勢力において人数において相手より強くなくてはいかん。この間主人が動物園から帰って来てしきりに感心して話した事がある。聞いて見ると駱駝《らくだ》と小犬の喧嘩を見たのだそうだ。小犬が駱駝の周囲を疾風のごとく廻転して吠《ほ》え立てると、駱駝は何の気もつかずに、依然として背中《せなか》へ瘤《こぶ》をこしらえて突っ立ったままであるそうだ。いくら吠えても狂っても相手にせんので、しまいには犬も愛想《あいそ》をつかしてやめる、実に駱駝は無神経だと笑っていたが、それがこの場合の適例である。いくらからかうものが上手でも相手が駱駝と来ては成立しない。さればと云って獅子《しし》や虎《とら》のように先方が強過ぎても者にならん
前へ 次へ
全750ページ中440ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング