熏して一となったのは、今から考えて見ても返す返す残念である。主人も残念であったろうが、やむを得ず書斎から飛び出して行って、ここは君等の這入《はい》る所ではない、出給えと云って、二三度追い出したようだ。ところが教育のある君子の事だから、こんな事でおとなしく聞く訳がない。追い出されればすぐ這入る。這入れば活溌なる歌をうたう。高声《こうせい》に談話をする。しかも君子の談話だから一風《いっぷう》違って、おめえ[#「おめえ」に傍点]だの知らねえ[#「知らねえ」に傍点]のと云う。そ?ネ言葉は御維新前《ごいっしんまえ》は折助《おりすけ》と雲助《くもすけ》と三助《さんすけ》の専門的知識に属していたそうだが、二十世紀になってから教育ある君子の学ぶ唯一の言語であるそうだ。一般から軽蔑《けいべつ》せられたる運動が、かくのごとく今日《こんにち》歓迎せらるるようになったのと同一の現象だと説明した人がある。主人はまた書斎から飛び出してこの君子流の言葉にもっとも堪能《かんのう》なる一人を捉《つら》まえて、なぜここへ這入るかと詰問したら、君子はたちまち「おめえ[#「おめえ」に傍点]、知らねえ[#「知らねえ」に傍点]
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