驍ノ従って、だんだん君子らしくなったものと見えて、次第に北側から南側の方面へ向けて蚕食《さんしょく》を企だてて来た。蚕食と云う語が君子に不似合ならやめてもよろしい。但《ただ》しほかに言葉がないのである。彼等は水草《すいそう》を追うて居を変ずる沙漠《さばく》の住民のごとく、桐《きり》の木を去って檜《ひのき》の方に進んで来た。檜のある所は座敷の正面である。よほど大胆なる君子でなければこれほどの行動は取れんはずである。一両日の後《のち》彼等の大胆はさらに一層の大を加えて大々胆《だいだいたん》となった。教育の結果ほど恐しいものはない。彼等は単に座敷の正面に逼《せま》るのみならず、この正面において歌をうたいだした。何と云う歌か忘れてしまったが、決して三十一文字《みそひともじ》の類《たぐい》ではない、もっと活溌《かっぱつ》で、もっと俗耳《ぞくじ》に入り易《やす》い歌であった。驚ろいたのは主人ばかりではない、吾輩までも彼等君子の才芸に嘆服《たんぷく》して覚えず耳を傾けたくらいである。しかし読者もご案内であろうが、嘆服と云う事と邪魔と云う事は時として両立する場合がある。この両者がこの際|図《はか》らず
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