ツ》れ合う群衆の上に高く傑出して、その瞬間には浴場全体がこの男一人になったと思わるるほどである。超人だ。ニーチェのいわゆる超人だ。魔中の大王だ。化物の頭梁《とうりょう》だ。と思って見ていると湯槽《ゆぶね》の後《うし》ろでおーいと答えたものがある。おやとまたもそちらに眸《ひとみ》をそらすと、暗憺《あんたん》として物色も出来ぬ中に、例のちゃんちゃん姿の三介《さんすけ》が砕けよと一塊《ひとかたま》りの石炭を竈《かまど》の中に投げ入れるのが見えた。竈の蓋《ふた》をくぐって、この塊りがぱちぱちと鳴るときに、三介の半ハがぱっと明るくなる。同時に三介の後《うし》ろにある煉瓦《れんが》の壁が暗《やみ》を通して燃えるごとく光った。吾輩は少々|物凄《ものすご》くなったから早々《そうそう》窓から飛び下りて家《いえ》に帰る。帰りながらも考えた。羽織を脱ぎ、猿股を脱ぎ、袴《はかま》を脱いで平等になろうと力《つと》める赤裸々の中には、また赤裸々の豪傑が出て来て他の群小を圧倒してしまう。平等はいくらはだかになったって得られるものではない。
 帰って見ると天下は太平なもので、主人は湯上がりの顔をテラテラ光らして晩餐《
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