セってせんだってじゅうは大変によく利くよく利くとおっしゃって毎日毎日上ったじゃありませんか」「こないだうちは利いたのだよ、この頃は利かないのだよ」と対句《ついく》のような返事をする。「そんなに飲んだり止《や》めたりしちゃ、いくら功能のある薬でも利く気遣《きづか》いはありません、もう少し辛防《しんぼう》がよくなくっちゃあ胃弱なんぞはほかの病気たあ違って直らないわねえ」とお盆を持って控えた御三《おさん》を顧みる。「それは本当のところでございます。もう少し召し上ってご覧にならないと、とても善《よ》い薬か悪い薬かわかりますまい」と御三は一も二もなく細君の肩を持つ。「何でもいい、飲まんのだから飲まんのだ、女なんかに何がわかるものか、黙っていろ」「どうせ女ですわ」と細君がタカジヤスターゼを主人の前へ突き付けて是非|詰腹《つめばら》を切らせようとする。主人は何にも云わず立って書斎へ這入《はい》る。細君と御三は顔を見合せてにやにやと笑う。こんなときに後《あと》からくっ付いて行って膝《ひざ》の上へ乗ると、大変な目に逢《あ》わされるから、そっと庭から廻って書斎の椽側へ上《あが》って障子の隙《すき》から覗《
前へ 次へ
全750ページ中42ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング