ら庭の立木を二三度飛鳥のごとく廻ってくる。蟷螂君《かまきりくん》はまだ五六寸しか逃げ延びておらん。もう吾輩の力量を知ったから手向いをする勇気はない。ただ右往左往へ逃げ惑《まど》うのみである。しかし吾輩も右往左往へ追っかけるから、君はしまいには苦しがって羽根を振《ふる》って一大活躍を試みる事がある。元来蟷螂の羽根は彼の首と調和して、すこぶる細長く出来上がったものだが、聞いて見ると全く装飾用だそうで、人間の英語、仏語、独逸語《ドイツご》のごとく毫《ごう》も実用にはならん。だから無用の長物を利用して一大活躍を試みたところが吾輩に対してあまり功能のありよう訳がない。名前は活躍だが事実は地面の上を引きずってあるくと云うに過ぎん。こうなると少々気の毒な感はあるが運動のためだから仕方がない。御免蒙《ごめんこうむ》ってたちまち前面へ馳《か》け抜ける。君は惰性で急廻転が出来ないからやはりやむを得ず前進してくる。その鼻をなぐりつける。この時蟷螂君は必ず羽根を広げたまま仆《たお》れる。その上をうんと前足で抑《おさ》えて少しく休息する。それからまた放す。放しておいてまた抑える。七擒七縦《しちきんしちしょう》孔
前へ
次へ
全750ページ中380ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング