で、当人に逢って篤《とく》と主意のあるところを糺《ただ》して見たのですが、当人もそんな事は知らないよと云って取り合わないのです。全くその辺が詩人の特色かと思います」「詩人かも知れないが随分妙な男ですね」と主人が云うと、迷亭が「馬鹿だよ」と単簡《たんかん》に送籍君を打ち留めた。東風君はこれだけではまだ弁じ足りない。「送籍は吾々仲間のうちでも取除《とりの》けですが、私の詩もどうか心持ちその気で読んでいただきたいので。ことに御注意を願いたいのはからき[#「からき」に傍点]この世と、あまき[#「あまき」に傍点]口づけと対《つい》をとったところが私の苦心です」「よほど苦心をなすった痕迹《こんせき》が見えます」「あまい[#「あまい」に傍点]とからい[#「からい」に傍点]と反照するところなんか十七味調《じゅうしちみちょう》唐辛子調《とうがらしちょう》で面白い。全く東風君独特の伎倆で敬々服々の至りだ」としきりに正直な人をまぜ返して喜んでいる。
 主人は何と思ったか、ふいと立って書斎の方へ行ったがやがて一枚の半紙を持って出てくる。「東風君の御作も拝見したから、今度は僕が短文を読んで諸君の御批評を願おう」
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