と云うのは本当に存在している婦人なのですか」と聞く。「へえ、この前迷亭先生とごいっしょに朗読会へ招待した婦人の一人です。ついこの御近所に住んでおります。実はただ今詩集を見せようと思ってちょっと寄って参りましたが、生憎《あいにく》先月から大磯へ避暑に行って留守でした」と真面目くさって述べる。「苦沙弥君、これが二十世紀なんだよ。そんな顔をしないで、早く傑作でも朗読するさ。しかし東風君この捧げ方は少しまずかったね。このあえかに[#「あえかに」に傍点]と云う雅言《がげん》は全体何と言う意味だと思ってるかね」「蚊弱《かよわ》いとかたよわく[#「たよわく」に傍点]と云う字だと思います」「なるほどそうも取れん事はないが本来の字義を云うと危う気に[#「危う気に」に傍点]と云う事だぜ。だから僕ならこうは書かないね」「どう書いたらもっと詩的になりましょう」「僕ならこうさ。世の人に似ずあえかに見え給う富子嬢の鼻の下[#「鼻の下」に傍点]に捧ぐとするね。わずかに三字のゆきさつだが鼻の下[#「鼻の下」に傍点]があるのとないのとでは大変感じに相違があるよ」「なるほど」と東風君は解《げ》しかねたところを無理に納得《
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