ない。説明だけは積極だが、実際あの劇をやられた日には、見物人はたしかに消極になるよ。ねえ東風君」「へえどうも消極過ぎるように思います」と真面目な顔をして答えた。
主人は少々談話の局面を展開して見たくなったと見えて、「どうです、東風さん、近頃は傑作もありませんか」と聞くと東風君は「いえ、別段これと云って御目にかけるほどのものも出来ませんが、近日詩集を出して見ようと思いまして――稿本《こうほん》を幸い持って参りましたから御批評を願いましょう」と懐から紫の袱紗包《ふくさづつみ》を出して、その中から五六十枚ほどの原稿紙の帳面を取り出して、主人の前に置く。主人はもっともらしい顔をして拝見と云って見ると第一頁に
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世の人に似ずあえかに見え給う
富子嬢に捧ぐ
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と二行にかいてある。主人はちょっと神秘的な顔をしてしばらく一頁を無言のまま眺《なが》めているので、迷亭は横合から「何だい新体詩かね」と云いながら覗《のぞ》き込んで「やあ、捧げたね。東風君、思い切って富子嬢に捧げたのはえらい」としきりに賞《ほ》める。主人はなお不思議そうに「東風さん、この富子
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