ると云う難儀も忘れて、面白く半日を消光する事が出来るのは感謝の至りである。どうせこれだけ集まれば只事《ただごと》ではすまない。何か持ち上がるだろうと襖《ふすま》の陰から謹《つつし》んで拝見する。
「どうもご無沙汰を致しました。しばらく」と御辞儀をする東風君の顔を見ると、先日のごとくやはり奇麗に光っている。頭だけで評すると何か緞帳役者《どんちょうやくしゃ》のようにも見えるが、白い小倉《こくら》の袴《はかま》のゴワゴワするのを御苦労にも鹿爪《しかつめ》らしく穿《は》いているところは榊原健吉《さかきばらけんきち》の内弟子としか思えない。従って東風君の身体で普通の人間らしいところは肩から腰までの間だけである。「いや暑いのに、よく御出掛だね。さあずっと、こっちへ通りたまえ」と迷亭先生は自分の家《うち》らしい挨拶をする。「先生には大分《だいぶ》久しく御目にかかりません」「そうさ、たしかこの春の朗読会ぎりだったね。朗読会と云えば近頃はやはり御盛《おさかん》かね。その後《ご》御宮《おみや》にゃなりませんか。あれは旨《うま》かったよ。僕は大《おおい》に拍手したぜ、君気が付いてたかい」「ええ御蔭で大きに勇
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