ホ面白い事ばかり……」と細君|相形《そうごう》を崩して笑っていると、格子戸《こうしど》のベルが相変らず着けた時と同じような音を出して鳴る。「おやまた御客様だ」と細君は茶の間へ引き下がる。細君と入れ違いに座敷へ這入《はい》って来たものは誰かと思ったらご存じの越智東風《おちとうふう》君であった。
 ここへ東風君さえくれば、主人の家《うち》へ出入《でいり》する変人はことごとく網羅し尽《つく》したとまで行かずとも、少なくとも吾輩の無聊《ぶりょう》を慰むるに足るほどの頭数《あたまかず》は御揃《おそろい》になったと云わねばならぬ。これで不足を云っては勿体《もったい》ない。運悪るくほかの家へ飼われたが最後、生涯人間中にかかる先生方が一人でもあろうとさえ気が付かずに死んでしまうかも知れない。幸《さいわい》にして苦沙弥先生門下の猫児《びょうじ》となって朝夕《ちょうせき》虎皮《こひ》の前に侍《はん》べるので先生は無論の事迷亭、寒月|乃至《ないし》東風などと云う広い東京にさえあまり例のない一騎当千の豪傑連の挙止動作を寝ながら拝見するのは吾輩にとって千載一遇の光栄である。御蔭様でこの暑いのに毛袋でつつまれてい
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