らごおり》筍谷《たけのこだに》を通って、蛸壺峠《たこつぼとうげ》へかかって、これからいよいよ会津領《あいづりょう》[#ルビの「あいづりょう」は底本では「あいずりょう」]へ出ようとするところだ」「妙なところだな」と主人がまた邪魔をする。「だまって聴いていらっしゃいよ。面白いから」と細君が制する。「ところが日は暮れる、路は分らず、腹は減る、仕方がないから峠の真中にある一軒屋を敲《たた》いて、これこれかようかようしかじかの次第だから、どうか留めてくれと云うと、御安い御用です、さあ御上がんなさいと裸蝋燭《はだかろうそく》を僕の顔に差しつけた娘の顔を見て僕はぶるぶると悸《ふる》えたがね。僕はその時から恋と云う曲者《くせもの》の魔力を切実に自覚したね」「おやいやだ。そんな山の中にも美しい人があるんでしょうか」「山だって海だって、奥さん、その娘を一目あなたに見せたいと思うくらいですよ、文金《ぶんきん》の高島田《たかしまだ》に髪を結《い》いましてね」「へえー」と細君はあっけに取られている。「這入《はい》って見ると八畳の真中に大きな囲炉裏《いろり》が切ってあって、その周《まわ》りに娘と娘の爺《じい》さん
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