っとの思いでこのいびつ[#「いびつ」に傍点]を取るとまた直径に狂いが出来ます。始めは林檎《りんご》ほどな大きさのものがだんだ?ャさくなって苺《いちご》ほどになります。それでも根気よくやっていると大豆《だいず》ほどになります。大豆ほどになってもまだ完全な円は出来ませんよ。私も随分熱心に磨りましたが――この正月からガラス玉を大小六個磨り潰しましたよ」と嘘だか本当だか見当のつかぬところを喋々《ちょうちょう》と述べる。「どこでそんなに磨っているんだい」「やっぱり学校の実験室です、朝磨り始めて、昼飯のときちょっと休んでそれから暗くなるまで磨るんですが、なかなか楽じゃありません」「それじゃ君が近頃忙がしい忙がしいと云って毎日日曜でも学校へ行くのはその珠を磨りに行くんだね」「全く目下のところは朝から晩まで珠ばかり磨っています」「珠作りの博士となって入り込みしは――と云うところだね。しかしその熱心を聞かせたら、いかな鼻でも少しはありがたがるだろう。実は先日僕がある用事があって図書館へ行って帰りに門を出ようとしたら偶然|老梅《ろうばい》君に出逢ったのさ。あの男が卒業後図書館に足が向くとはよほど不思議な事
前へ 次へ
全750ページ中335ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング