ると少々鼠|臭《くさ》い。もしここから吶喊《とっかん》して出たら、柱を楯《たて》にやり過ごしておいて、横合からあっと爪をかける。もし天井から来たらと上を仰ぐと真黒な煤《すす》がランプの光で輝やいて、地獄を裏返しに釣るしたごとくちょっと吾輩の手際《てぎわ》では上《のぼ》る事も、下《くだ》る事も出来ん。まさかあんな高い処から落ちてくる事もなかろうからとこの方面だけは警???sと》く事にする。それにしても三方から攻撃される懸念《けねん》がある。一口なら片眼でも退治して見せる。二口ならどうにか、こうにかやってのける自信がある。しかし三口となるといかに本能的に鼠を捕《と》るべく予期せらるる吾輩も手の付けようがない。さればと云って車屋の黒ごときものを助勢に頼んでくるのも吾輩の威厳に関する。どうしたら好かろう。どうしたら好かろうと考えて好い智慧《ちえ》が出ない時は、そんな事は起る気遣《きづかい》はないと決めるのが一番安心を得る近道である。また法のつかない者は起らないと考えたくなるものである。まず世間を見渡して見給え。きのう貰った花嫁も今日死なんとも限らんではないか、しかし聟殿《むこどの》は玉椿千代も
前へ 次へ
全750ページ中305ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング