から一本の自在《じざい》を下ろして、先へは平たい大きな籠《かご》をかける。その籠が時々風に揺れて鷹揚《おうよう》に動いて「る。この籠は何のために釣るすのか、この家《うち》へ来たてには一向《いっこう》要領を得なかったが、猫の手の届かぬためわざと食物をここへ入れると云う事を知ってから、人間の意地の悪い事をしみじみ感じた。
これから作戦計画だ。どこで鼠と戦争するかと云えば無論鼠の出る所でなければならぬ。いかにこっちに便宜《べんぎ》な地形だからと云って一人で待ち構えていてはてんで戦争にならん。ここにおいてか鼠の出口を研究する必要が生ずる。どの方面から来るかなと台所の真中に立って四方を見廻わす。何だか東郷大将のような心持がする。下女はさっき湯に行って戻って来《こ》ん。小供はとくに寝ている。主人は芋坂《いもざか》の団子を喰って帰って来て相変らず書斎に引き籠《こも》っている。細君は――細君は何をしているか知らない。大方居眠りをして山芋の夢でも見ているのだろう。時々門前を人力《じんりき》が通るが、通り過ぎた後《あと》は一段と淋しい。わが決心と云い、わが意気と云い台所の光景と云い、四辺《しへん》の寂寞
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