き》が台所の腰障子の破れから飛び込んで手桶《ておけ》の中に浮ぶ影が、薄暗き勝手用のランプの光りに白く見える。今夜こそ大手柄をして、うちじゅう驚かしてやろうと決心した吾輩は、あらかじめ戦場を見廻って地形を飲み込んでおく必要がある。戦闘線は勿論《もちろん》あまり広かろうはずがない。畳数にしたら四畳敷もあろうか、その一畳を仕切って半分は流し、半分は酒屋八百屋の御用を聞く土間である。へっついは貧乏勝手に似合わぬ立派な者で赤の銅壺《どうこ》がぴかぴかして、後《うし》ろは羽目板の間《ま》を二尺|遺《のこ》して吾輩の鮑貝《あわびがい》の所在地である。茶の間に近き六尺は膳椀《ぜんわん》皿小鉢《さらこばち》を入れる戸棚となって狭《せま》き台所をいとど狭く仕切って、横に差し出すむき出しの棚とすれすれの高さになっている。その下に摺鉢《すりばち》が仰向《あおむ》けに置かれて、摺鉢の中には小桶の尻が吾輩の方を向いている。大根卸し、摺小木《すりこぎ》が並んで懸《か》[#ルビの「か」は底本では「け」]けてある傍《かたわ》らに火消壺だけが悄然《しょうぜん》と控《ひか》えている。真黒になった樽木《たるき》の交叉した真中
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