の間にしばしの間身を忍ばせて動静を窺《うか》がう。
 陰士の足音は寝室の障子の前へ来てぴたりと已《や》む。吾輩は息を凝《こ》らして、この次は何をするだろうと一生懸命になる。あとで考えたが鼠を捕《と》る時は、こんな気分になれば訳はないのだ、魂《たましい》が両方の眼から飛び出しそうな勢《いきおい》である。陰士の御蔭で二度とない悟《さとり》を開いたのは実にありがたい。たちまち障子の桟《さん》の三つ目が雨に濡れたように真中だけ色が変る。それを透《すか》して薄紅《うすくれない》なものがだんだん濃く写ったと思うと、紙はいつか破れて、赤い舌がぺろりと見えた。舌はしばしの間《ま》に暗い中に消える。入れ代って何だか恐しく光るものが一つ、破れた孔《あな》の向側にあらわれる。疑いもなく陰士の眼である。妙な事にはその眼が、部屋の中にある何物をも見ないで、ただ柳行李の後《うしろ》に隠れていた吾輩のみを見つめているように感ぜられた。一分にも足らぬ間ではあったが、こう睨《にら》まれては寿命が縮まると思ったくらいである。もう我慢出来んから行李の影から飛出そうと決心した時、寝室の障子がスーと明いて待ち兼ねた陰士がついに
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