この極楽主義によって成功し、この極楽主義によって金時計をぶら下げ、この極楽主義で金田夫婦の依頼をうけ、同じくこの極楽主義でまんまと首尾よく苦沙弥君を説き落して当該《とうがい》事件が十中八九まで成就《じょうじゅ》したところへ、迷亭なる常規をもって律すべからざる、普通の人間以外の心理作用を有するかと怪まるる風来坊《ふうらいぼう》が飛び込んで来たので少々その突然なるに面喰《めんくら》っているところである。極楽主義を発明したものは明治の紳士で、極楽主義を実行するものは鈴木藤十郎君で、今この極楽主義で困却しつつあるものもまた鈴木藤十郎君である。
「君は何にも知らんからそうでもなかろう[#「そうでもなかろう」に傍点]などと澄し返って、例になく言葉寡《ことばずく》なに上品に控《ひか》え込むが、せんだってあの鼻の主が来た時の容子《ようす》を見たらいかに実業家|贔負《びいき》の尊公でも辟易《へきえき》するに極《きま》ってるよ、ねえ苦沙弥君、君|大《おおい》に奮闘したじゃないか」
「それでも君より僕の方が評判がいいそうだ」
「アハハハなかなか自信が強い男だ。それでなくてはサヴェジ・チーなんて生徒や教師にか
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