株ばかりしかない。もう少し早く君が東京へ出てくれば、虫の喰わないところを十株ばかりやるところだったが惜しい事をした」
「相変らず口が悪るい。しかし冗談は冗談として、ああ云う株は持ってて損はないよ、年々《ねんねん》高くなるばかりだから」
「そうだ仮令《たとい》半株だって千年も持ってるうちにゃ倉が三つくらい建つからな。君も僕もその辺にぬかりはない当世の才子だが、そこへ行くと苦沙弥などは憐れなものだ。株と云えば大根の兄弟分くらいに考えているんだから」とまた羊羹《ようかん》をつまんで主人の方を見ると、主人も迷亭の食《く》い気《け》が伝染して自《おの》ずから菓子皿の方へ手が出る。世の中では万事積極的のものが人から真似らるる権利を有している。
「株などはどうでも構わんが、僕は曾呂崎《そろさき》に一度でいいから電車へ乗らしてやりたかった」と主人は喰い欠けた羊羹の歯痕《はあと》を撫然《ぶぜん》として眺める。
「曾呂崎が電車へ乗ったら、乗るたんびに品川まで行ってしまうは、それよりやっぱり天然居士《てんねんこじ》で沢庵石《たくあんいし》へ彫《ほ》り付けられてる方が無事でいい」
「曾呂崎と云えば死んだそうだ
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