》は観音様《かんのんさま》の鳩の事を思い出す。観音様の鳩と細君の禿とは何等の関係もないようであるが、主人の頭では二つの間に密接な聯想がある。同じく小供の時分に浅草へ行くと必ず鳩に豆を買ってやった。豆は一皿が文久《ぶんきゅう》二つで、赤い土器《かわらけ》へ這入《はい》っていた。その土器《かわらけ》が、色と云い大《おおき》さと云いこの禿によく似ている。
「なるほど似ているな」と主人が、さも感心したらしく云うと「何がです」と細君は見向きもしない。
「何だって、御前の頭にゃ大きな禿があるぜ。知ってるか」
「ええ」と細君は依然として仕事の手をやめずに答える。別段露見を恐れた様子もない。超然たる模範妻君である。
「嫁にくるときからあるのか、結婚後新たに出来たのか」と主人が聞く。もし嫁にくる前から禿げているなら欺《だま》されたのであると口へは出さないが心の中《うち》で思う。
「いつ出来たんだか覚えちゃいませんわ、禿なんざどうだって宜《い》いじゃありませんか」と大《おおい》に悟ったものである。
「どうだって宜いって、自分の頭じゃないか」と主人は少々怒気を帯びている。
「自分の頭だから、どうだって宜《い
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