の指の股に巻煙草《まきたばこ》を挟んでいる。ただそれだけである。もっとも彼がフケ[#「フケ」に傍点]だらけの頭の裏《うち》には宇宙の大真理が火の車のごとく廻転しつつあるかも知れないが、外部から拝見したところでは、そんな事とは夢にも思えない。
 煙草の火はだんだん吸口の方へ逼《せま》って、一寸《いっすん》ばかり燃え尽した灰の棒がぱたりと毛布の上に落つるのも構わず主人は一生懸命に煙草から立ち上《のぼ》る煙の行末を見詰めている。その煙りは春風に浮きつ沈みつ、流れる輪を幾重《いくえ》にも描いて、紫深き細君の洗髪《あらいがみ》の根本へ吹き寄せつつある。――おや、細君の事を話しておくはずだった。忘れていた。
 細君は主人に尻《しり》を向けて――なに失礼な細君だ? 別に失礼な事はないさ。礼も非礼も相互の解釈次第でどうでもなる事だ。主人は平気で細君の尻のところへ頬杖《ほおづえ》を突き、細君は平気で主人の顔の先へ荘厳《そうごん》なる尻を据《す》えたまでの事で無礼も糸瓜《へちま》もないのである。御両人は結婚後一ヵ年も立たぬ間《ま》に礼儀作法などと窮屈な境遇を脱却せられた超然的夫婦である。――さてかくのごと
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