門を出入《しゅつにゅう》するのも、ただこの危険が冒《おか》して見たいばかりかも知れぬ。それは追って篤《とく》と考えた上、猫の脳裏《のうり》を残りなく解剖し得た時改めて御吹聴《ごふいちょう》仕《つかまつ》ろう。
今日はどんな模様だなと、例の築山の芝生《しばふ》の上に顎《あご》を押しつけて前面を見渡すと十五畳の客間を弥生《やよい》の春に明け放って、中には金田夫婦と一人の来客との御話《おはなし》最中《さいちゅう》である。生憎《あいにく》鼻子夫人の鼻がこっちを向いて池越しに吾輩の額の上を正面から睨《にら》め付けている。鼻に睨まれたのは生れて今日が始めてである。金田君は幸い横顔を向けて客と相対しているから例の平坦な部分は半分かくれて見えぬが、その代り鼻の在所《ありか》が判然しない。ただ胡麻塩《ごましお》色の口髯《くちひげ》が好い加減な所から乱雑に茂生《もせい》しているので、あの上に孔《あな》が二つあるはずだと結論だけは苦もなく出来る。春風《はるかぜ》もああ云う滑《なめら》かな顔ばかり吹いていたら定めて楽《らく》だろうと、ついでながら想像を逞《たくま》しゅうして見た。御客さんは三人の中《うち》で
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