これからが結論だぜ。――さて以上の公式にウィルヒョウ、ワイスマン諸家の説を参酌して考えて見ますと、先天的形体の遺伝は無論の事許さねばなりません。またこの形体に追陪《ついばい》して起る心意的状況は、たとい後天性は遺伝するものにあらずとの有力なる説あるにも関せず、ある程度までは必然の結果と認めねばなりません。従ってかくのごとく身分に不似合なる鼻の持主の生んだ子には、その鼻にも何か異状がある事と察せられます。寒月君などは、まだ年が御若いから金田令嬢の鼻の構造において特別の異状を認められんかも知れませんが、かかる遺伝は潜伏期の長いものでありますから、いつ何時《なんどき》気候の劇変と共に、急に発達して御母堂のそれのごとく、咄嗟《とっさ》の間《かん》に膨脹《ぼうちょう》するかも知れません、それ故にこの御婚儀は、迷亭の学理的論証によりますと、今の中御断念になった方が安全かと思われます、これには当家の御主人は無論の事、そこに寝ておらるる猫又殿《ねこまたどの》にも御異存は無かろうと存じます」主人はようよう起き返って「そりゃ無論さ。あんなものの娘を誰が痰、ものか。寒月君もらっちゃいかんよ」と大変熱心に主張
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