から玄関へ行くまでにうんざりする事があるそうで誠に御気の毒の話だが、なるほどやってみるとその通り、これでようやく玄関まで着きましたから思いきって本当の定義に移りましょう。
開化は人間活力の発現の経路である。と私はこう云いたい。私ばかりじゃない、あなた方だってそういうでしょう。もっともそう云ったところで別に書物に書いてある訳でも何でもない、私がそう言いたいまでの事であるがその代り珍らしくも何ともない。がこれすこぶる漠然《ばくぜん》としている。前口上を長々述べ立てた後でこのくらいの定義を御吹聴《ごふいちょう》に及んだだけではあまり人を馬鹿にしているようですが、まあそこから定めてかからないと曖昧《あいまい》になるから、実はやむをえないのです。それで人間の活力と云うものが今申す通り時の流を沿うて発現しつつ開化を形造って行くうちに私は根本的に性質の異った二種類の活動を認めたい、否確かに認めるのであります。
その二通りのうち一つは積極的のもので、一つは消極的のものである。何か月並のような講釈をしてすみませんが、人間活力の発現上積極的と云う言葉を用いますと、勢力の消耗を意味する事になる。またもう
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