現代日本の開化
――明治四十四年八月和歌山において述――
夏目漱石

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)迂余曲折《うよきょくせつ》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)琥珀の中に時々|蠅《はえ》が入ったのがある。
−−

 はなはだお暑いことで、こう暑くては多人数お寄合いになって演説などお聴きになるのは定めしお苦しいだろうと思います。ことに承《うけたまわ》れば昨日も何か演説会があったそうで、そう同じ催しが続いてはいくらあたらない保証のあるものでも多少は流行過《はやりすぎ》の気味で、お聴きになるのもよほど御困難だろうと御察し申します。が演説をやる方の身になって見てもそう楽ではありません。ことにただいま牧君の紹介で漱石君の演説は迂余曲折《うよきょくせつ》の妙があるとか何とかいう広告めいた賛辞をちょうだいした後に出て同君の吹聴通《ふいちょうどお》りをやろうとするとあたかも迂余曲折の妙を極めるための芸当を御覧に入れるために登壇したようなもので、いやしくもその妙を極めなければ降りることができないような気がして、いやが上にやりにくい羽目に陥《お
次へ
全41ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング