かったならば、万事に勝手が悪い訳だから、まあ互に研究もし、また分るだけは分らせておく方が都合が好かろうと思うのであります。それについては少し学究めきますが、日本とか現代とかいう特別な形容詞に束縛されない一般の開化から出立してその性質を調べる必要があると考えます。御互いに開化と云う言葉を使っておって、日に何遍も繰返《くりかえ》しているけれども、はたして開化とはどんなものだと煎《せん》じつめて聞き糺《ただ》されて見ると、今まで互に了解し得たとばかり考えていた言葉の意味が存外喰違っていたりあるいはもってのほかに漠然《ばくぜん》と曖昧《あいまい》であったりするのはよく有る事だから私はまず開化の定義からきめてかかりたいのです。
 もっとも定義を下すについてはよほど気をつけないととんでもない事になる。これをむずかしく言いますと、定義を下せばその定義のために定義を下されたものがピタリと糊細工《のりざいく》のように硬張《こわば》ってしまう。複雑な特性を簡単に纏《まと》める学者の手際《てぎわ》と脳力とには敬服しながらも一方においてその迂濶《うかつ》を惜まなければならないような事が彼らの下した定義を見ると
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