目には退屈を催し、一時間目には欠伸《あくび》が出る。とそう私の想像通り行くか行かないか分りませんが、もしそうだとするならば、私が無理にここで二時間も三時間もしゃべっては、あなた方の心理作用に反して我《が》を張ると同じ事でけっして成功はできない。なぜかと云えばこの講演がその場合あなた方の自然に逆《さから》った外発的のものになるからであります。いくら咽喉《のど》を絞《しぼ》り声を嗄《か》らして怒鳴《どな》ってみたってあなたがたはもう私の講演の要求の度を経過したのだからいけません。あなた方は講演よりも茶菓子が食いたくなったり酒が飲みたくなったり氷水が欲しくなったりする。その方が内発的なのだから自然の推移で無理のないところなのである。
これだけ説明しておいて現代日本の開化に後戻をしたらたいてい大丈夫でしょう。日本の開化は自然の波動を描いて甲の波が乙の波を生み乙の波が丙の波を押し出すように内発的に進んでいるかと云うのが当面の問題なのですが残念ながらそう行っていないので困るのです。行っていないと云うのは、先程《さきほど》も申した通り活力節約活力消耗の二大方面においてちょうど複雑の程度二十を有して
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