早く自由になりたい、人から強《し》いられてやむをえずする仕事はできるだけ分量を圧搾《あっさく》して手軽に済ましたいという根性が常に胸の中《うち》につけまとっている。その根性が取《とり》も直《なお》さず活力節約の工夫《くふう》となって開化なるものの一大原動力を構成するのであります。
 かく消極的に活力を節約しようとする奮闘に対して一方ではまた積極的に活力を任意随所に消耗しようという精神がまた開化の一半を組み立てている。その発現の方法もまた世が進めば進むほど複雑になるのは当然であるが、これをごく約《つづ》めてどんな方面に現われるかと説明すればまず普通の言葉で道楽という名のつく刺戟《しげき》に対し起るものだとしてしまえば一番早分りであります。道楽と云えば誰も知っている。釣魚《つり》をするとか玉を突くとか、碁《ご》を打つとか、または鉄砲を担《かつ》いで猟に行くとか、いろいろのものがありましょう。これらは説明するがものはないことごとく自から進んで強《し》いられざるに自分の活力を消耗して嬉《うれ》しがる方であります。なお進んではこの精神が文学にもなり科学にもなりまたは哲学にもなるので、ちょっと見る
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