7−64]を馳《か》け抜ける時は上に向えるが又向き直りて行き過ぎし風を追う。左へ左へと溶けたる舌は見る間に長くなり、又広くなる。果は此所《ここ》にも一枚の火が出来る、かしこにも一枚の火が出来る。火に包まれたる※[#「土へん+楪のつくり」、第4水準2−4−94]の上を黒き影が行きつ戻りつする。たまには暗き上から明るき中へ消えて入ったぎり再び出て来ぬのもある。
 焦《や》け爛《ただ》れたる高櫓の、機熟してか、吹く風に逆《さから》いてしばらくは※[#「(諂−言)+炎」、第3水準1−87−64]と共に傾くと見えしが、奈落までも落ち入らでやはと、三分二を岩に残して、倒《さか》しまに崩れかかる。取り巻く※[#「(諂−言)+炎」、第3水準1−87−64]の一度にパッと天地を燬《や》く時、※[#「土へん+楪のつくり」、第4水準2−4−94]の上に火の如き髪を振り乱して佇《たたず》む女がある。「クララ!」とウィリアムが叫ぶ途端に女の影は消える。焼け出された二頭の馬が鞍付のまま宙を飛んで来る。
 疾く走る尻尾《しりお》を攫《つか》みて根元よりスパと抜ける体なり、先なる馬がウィリアムの前にて礑《はた》ととま
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