元日
夏目漱石
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)御目出《おめで》たい
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)一体|何処《どこ》の誰か
−−
元日を御目出《おめで》たいものと極《き》めたのは、一体|何処《どこ》の誰か知らないが、世間が夫《そ》れに雷同《らいどう》しているうちは新聞社が困る丈《だけ》である。雑録でも短篇でも小説でも乃至《ないし》は俳句漢詩和歌でも、苟《いやし》くも元日の紙上にあらわれる以上は、いくら元日らしい顔をしたって、元日の作でないに極《きま》っている。尤《もっと》も師走《しわす》に想像を逞《たくま》しくしてはならぬと申し渡された次第でないから、節季《せっき》に正月らしい振をして何か書いて置けば、年内に餅《もち》を搗《つ》いといて、一夜明けるや否や雑煮《ぞうに》として頬張《ほおば》る位のものには違ないが、御目出たい実景の乏しい今日、御目出たい想像などは容易に新聞社の頭に宿るものではない。それを無理に御目出たがろうとすると、所謂《いわゆる》太倉《たいそう》の粟《ぞく》陳々相依《ちんちんあいよ》るという頗《すこぶ》
次へ
全5ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング