君は詰め寄せた。
「日本と露西亜《ロシア》の戦争じゃない。人種と人種の戦争だよ」
「無論さ」
「亜米利加《アメリカ》を見ろ、印度《インド》を見ろ、亜弗利加《アフリカ》を見ろ」
「それは叔父さんが外国で死んだから、おれも外国で死ぬと云う論法だよ」
「論より証拠誰でも死ぬじゃないか」
「死ぬのと殺されるのとは同じものか」
「大概は知らぬ間《ま》に殺されているんだ」
すべてを爪弾《つまはじ》きした甲野さんは杖の先で、とんと石橋《せっきょう》を敲《たた》いて、ぞっとしたように肩を縮める。宗近君はぬっと立ち上がる。
「あれを見ろ。あの堂を見ろ。峩山《がざん》と云う坊主は一椀の托鉢《たくはつ》だけであの本堂を再建したと云うじゃないか。しかも死んだのは五十になるか、ならんうちだ。やろうと思わなければ、横に寝《ね》た箸《はし》を竪《たて》にする事も出来ん」
「本堂より、あれを見ろ」と甲野さんは欄干に腰をかけたまま、反対の方角を指す。
世界を輪切りに立て切った、山門の扉を左右に颯《さっ》と開《ひら》いた中を、――赤いものが通る、青いものが通る。女が通る。小供が通る。嵯峨《さが》の春を傾けて、京の人は
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