「うん御互にか、御互なら勘弁するが、おれだけじゃ……」
「聞き捨てにならんか。そう気にするだけまだ若いところもあるようだ」
「何だ坂の途中で人を馬鹿にするな」
「そら、坂の途中で邪魔になる。ちょっと退《ど》いてやれ」
百折《ももお》れ千折《ちお》れ、五間とは直《すぐ》に続かぬ坂道を、呑気《のんき》な顔の女が、ごめんやすと下りて来る。身の丈《たけ》に余る粗朶《そだ》の大束を、緑《みど》り洩《も》る濃き髪の上に圧《おさ》え付けて、手も懸《か》けずに戴《いただ》きながら、宗近君の横を擦《す》り抜ける。生《お》い茂《しげ》る立ち枯れの萱《かや》をごそつかせた後《うし》ろ姿の眼《め》につくは、目暗縞《めくらじま》の黒きが中を斜《はす》に抜けた赤襷《あかだすき》である。一里を隔《へだ》てても、そこと指《さ》す指《ゆび》の先に、引っ着いて見えるほどの藁葺《わらぶき》は、この女の家でもあろう。天武天皇の落ちたまえる昔のままに、棚引《たなび》く霞《かすみ》は長《とこ》しえに八瀬《やせ》の山里を封じて長閑《のどか》である。
「この辺の女はみんな奇麗《きれい》だな。感心だ。何だか画《え》のようだ」と宗近君
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