からんでもいいや、それよりこの襖《ふすま》が面白いよ。一面に金紙《きんがみ》を張り付けたところは豪勢だが、ところどころに皺《しわ》が寄ってるには驚ろいたね。まるで緞帳芝居《どんちょうしばい》の道具立《どうぐだて》見たようだ。そこへ持って来て、筍《たけのこ》を三本、景気に描《か》いたのは、どう云う了見《りょうけん》だろう。なあ甲野さん、これは謎《なぞ》だぜ」
「何と云う謎だい」
「それは知らんがね。意味が分からないものが描《か》いてあるんだから謎だろう」
「意味が分からないものは謎にはならんじゃないか。意味があるから謎なんだ」
「ところが哲学者なんてものは意味がないものを謎だと思って、一生懸命に考えてるぜ。気狂《きちがい》の発明した詰将棋《つめしょうぎ》の手を、青筋を立てて研究しているようなものだ」
「じゃこの筍も気違の画工《えかき》が描いたんだろう」
「ハハハハ。そのくらい事理《じり》が分ったら煩悶《はんもん》もなかろう」
「世の中と筍といっしょになるものか」
「君、昔話《むかしばな》しにゴージアン・ノットと云うのがあるじゃないか。知ってるかい」
「人を中学生だと思ってる」
「思ってい
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