て面倒を見て上げるがいい。糸公にもよく話しておくから」
「うん」と甲野さんは答えたぎりである。
 隣室の線香が絶えんとする時、小野さんは蒼白《あおじろ》い額を抑えて来た。藍色《あいいろ》の煙は再び銀屏《ぎんびょう》を掠《かす》めて立ち騰《のぼ》った。
 二日して葬式は済んだ。葬式の済んだ夜、甲野さんは日記を書き込んだ。――
「悲劇はついに来た。来《きた》るべき悲劇はとうから預想《よそう》していた。預想した悲劇を、なすがままの発展に任せて、隻手《せきしゅ》をだに下さぬは、業《ごう》深き人の所為に対して、隻手の無能なるを知るが故《ゆえ》である。悲劇の偉大なるを知るが故である。悲劇の偉大なる勢力を味わわしめて、三世《さんぜ》に跨《また》がる業《ごう》を根柢から洗わんがためである。不親切なためではない。隻手を挙ぐれば隻手を失い、一目《いちもく》を揺《うご》かせば一目を眇《びょう》す。手と目とを害《そこの》うて、しかも第二者の業《ごう》は依然として変らぬ。のみか時々に刻々に深くなる。手を袖《そで》に、眼を閉ずるは恐るるのではない。手と目より偉大なる自然の制裁を親切に感受して、石火の一拶《いっさつ
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