《さか》に立てたのは二枚折の銀屏《ぎんびょう》である。一面に冴《さ》え返る月の色の方《ほう》六尺のなかに、会釈《えしゃく》もなく緑青《ろくしょう》を使って、柔婉《なよやか》なる茎を乱るるばかりに描《か》いた。不規則にぎざぎざを畳む鋸葉《のこぎりは》を描いた。緑青の尽きる茎の頭には、薄い弁《はなびら》を掌《てのひら》ほどの大《おおき》さに描いた。茎を弾《はじ》けば、ひらひらと落つるばかりに軽く描いた。吉野紙を縮まして幾重の襞《ひだ》を、絞《しぼ》りに畳み込んだように描いた。色は赤に描いた。紫に描いた。すべてが銀《しろかね》の中から生《は》える。銀の中に咲く。落つるも銀の中と思わせるほどに描いた。――花は虞美人草《ぐびじんそう》である。落款《らっかん》は抱一《ほういつ》である。
屏風《びょうぶ》の陰に用い慣れた寄木《よせき》の小机を置く。高岡塗《たかおかぬり》の蒔絵《まきえ》の硯筥《すずりばこ》は書物と共に違棚《ちがいだな》に移した。机の上には油を注《さ》した瓦器《かわらけ》を供えて、昼ながらの灯火《ともしび》を一本の灯心《とうしん》に点《つ》ける。灯心は新らしい。瓦器の丈《たけ》を余り
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