き棄《す》てた書面は見事に乱れている。あるいは二三行、あるいは五六行、はなはだしいのは一行の半分で引き千切ったのがある。
「みんな要りません」
「それじゃ、ちっと片づけよう。紙屑籠《かみくずかご》はどこにあるの」
 欽吾は答えなかった。母は机の下を覗《のぞ》き込む。西洋流の籃製《かごせい》の屑籠《くずかご》が、足掛《あしかけ》の向《むこう》に仄《ほのか》に見える。母は屈《こご》んで手を伸《のば》した。紺緞子《こんどんす》の帯が、窓からさす明《あかり》をまともに受けた。
 欽吾は腕を右へ真直《まっすぐ》に、日蔽《ひおい》のかかった椅子《いす》の背頸《せくび》を握った。瘠《や》せた肩を斜《ななめ》にして、ずるずると机の傍《そば》まで引いて来た。
 母は机の奥から屑籠を引《ひ》き擦《ず》り出した。手紙の断片《きれ》を一つ一つ床から拾って籠の中へ入れる。捩《ね》じ曲げたのを丹念に引き延ばして見る。「いずれ拝眉《はいび》の上……」と云うのを投げ込む。「……御免蒙《ごめんこうむ》り度候《たくそろ》。もっとも事情の許す場合には御……」と云うのを投げ込む。「……はとうてい辛抱致しかね……」と云うのを裏
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